コハルアン日乗

コハルアン店主の私的記録|器と工藝のこと|神楽坂のこと

秩父の織物

関東には、銘仙と呼ばれる織物があり、その産地のひとつが埼玉県秩父市。 「秩父銘仙」という名前、着物好きの方であればご存じのことと思います。僕は着物や織物についてはまったくの素人。 絵柄の入った反物については、「先に染めた糸で反物を織るか(←絣…

消費される覚悟

新宿地下道の壁面を大きく飾っていたこのポスター、すごーく秀逸。 時代の寵児と言ってもいいマツコ・デラックスさんの個性をよく活かしていますよね。マツコさんのことはメジャーになる前から知っていて、その言動(+文章)を密かに楽しんでいたのだけれど…

日本の美邸

現在『コハル・ノート』という連載コラムを持っているサイト「チルチンびと広場」。 こちらには、「日本の美邸 Japan Quality」という別冊的姉妹サイトがあります。実際にご覧いただくとわかるのですが、各コンテンツとも日本語のテキストに付随して英訳を掲…

耳を傾ける

深みを湛えるよきたたずまいのムクロジの器。 いま展示しているコウノストモヤさんの木工作品たちの中で、唯一、木の割れをそのまま生かしているのが、このプレートです。 考えてみれば、我々人間だって、ひとりひとり顔も違えば考え方も違うもの。 きれいな…

災い転じて

「災い」とは突然やってくるから災いなのであって、前もってわかっていたら、それを災いとは呼ばないわけですよね。 何を言ってるんだ、という感じですが、わが店は先月、そんな不測の事態に襲われ、一か月をふいにしてしまったのです。その「災い」とは、パ…

参考館まで

同じ仕事を長く続けていると、こなれてくる部分もあるけれど、溜め込んだ情報や知識が頭の中でこんがらかってしまうことも多々あります。 スーパークレバーな人であれば、そういうことはまったくないのでしょうが、僕はただの凡人。始終こんがらかりっぱなし…

掻き落とし

昨年秋の展示の際に飯碗を作ってくれた川島いずみさん。 今年最初の企画展「新しい古典」では、新たに中鉢や小鉢を作ってくれました。彼女が用いている「掻き落とし」という加飾技法については 昨年10月のブログ で説明しているので割愛しますが、中国古陶磁…

いい意味で

日本語って、うつろいやすい言語ですよね。 どうにかすると、言葉が持っているニュアンス自体、時代とともにがらっと変わってしまうこともあります。僕の中では、その代表格が「ヤバい」。20世紀には「ヤバい」と言えば、悪い意味合いで使っていたものだけれ…

はしご癖

40代半ばあたりから目に見えて酒量が減っていたのだけれど、昨年の中頃からは、いよいよお酒を受け付けない体に。 これまで「NO SAKE, NO LIFE」な人間だったので、はじめは「こりゃあまいったなあ」と困惑したものの、最近になって「これはこれでいいかもね…

九谷の香炉

九谷焼の作り手・川合孝知さんとはけっこう長いお付き合い。 これまで食器を中心に作ってもらってきたのですが、川合さんの筆致で描かれた色絵の香炉がほしいなーと思い続けていて、ようやくその願いが叶いました。絵柄は山水画をアレンジしたもので、ぐるり…

オオカミ

正月三日には、秩父をぐるり。 景勝地として有名な長瀞では、宝登山(ほどさん)という小高い山に鎮座する宝登山神社に立ち寄りました。ヤマトタケルの地方平定にまつわる説話は各地に伝わっているけれど、この神社のご由緒がまさにそれ。 宝登山上で神を祀…

あらたま

新しい年を迎えました。 今年もどうぞよろしくお願いいたします。昨年は店の名前を替えたこともあり、肩に力が入り過ぎていたというかなんというか、ペースがつかみきれない状態のままで一年を終えてしまった感じ。 「こうありたい」という気持ちばかりが先…

京都まで

今年最後の出張は、今月訪れた京都。 日帰りだったので、自由時間は少なかったのですが、それでもいろいろ寄り道をしてきました。ちゃっかりと。はじめてのお付き合いになる小林さんご夫妻のガラス工房に向かう道すがら、木屋町で白みそ仕立ての汁がメインの…

奇しき景色

前回、有田の陶山神社の話 でちょっとだけ触れたのが、陶祖・李参平。李が陶祖と呼ばれる所以は、陶工の長として優れていたことに加え、磁器制作を産業として成り立たせるために必要な陶石の採掘場を町内の泉山で発見したから。 それから約400年。いまはここ…

陶山神社

日本の磁器発祥の地と言われる有田は、百貨店に勤めていた時代(←大昔ね)からちょくちょくお邪魔している町。 ただ、これまでの出張ではスケジュールを盛りすぎて、窯元や作家の工房を廻ってへとへとになって帰ってくるだけでした。 そんなわけで、有田では…

神と仏と

9月の北陸出張では、九谷焼の川合孝知さんを訪ねる前に、近くの那谷寺(なたでら=石川県小松市)を参拝。日本史の教科書に書かれている通り、このあたりは戦国時代に一向宗が一大勢力を誇った地ですが、もっと時代を遡ってみれば、土俗的な山岳信仰=白山信…

三国にて

北陸を旅したのは、9月のこと。福井では、陶芸家・タナカマナブさんが工房を構える三国湊を訪問。 風情のある港町には、北前船が日本の物流の花形であった頃の痕跡が方々に残っていて、タナカさんがあちこち案内してくれました。そのひとつが旧森田銀行本店…

漆の森へ

今年も残すところ10日あまりになりましたが、心が急いてしまうだけで、すべてがカラカラ空回り。 振り返れば、ブログの更新がかなり滞ってしまっていたので、心を落ち着けるためにも、今日から、書き忘れていた今年後半の諸々を備忘録として残していこうと思…

銀色の花

陶芸、七宝、彫金 ――。ここ数年、明治の超絶技巧が注目されているけれど、これらのジャンルの中でも彫金というのは、独特な立ち位置にあると思います。 もともと刀剣の鍔など武家社会に因って立つ体制側の工藝として存在しながら、幕府瓦解の後、ヨーロッパ…

言葉の海

NODA・MAP第22回公演「贋作 桜の森の満開の下」を観てきました。第18回の「MIWA」、第21回「足跡姫」も観ているので、今回で三回目。 前に見た二回と同じく、今回も脳の奥の方をずこずこ刺激されてきました。全編を貫く言葉遊びは、日本語の特徴(『母音』も…

こますじ

全国的に有名な益子陶器市は、地元の作り手だけではなく、他の地方からの方々も受け入れていて、古いお付き合いになる常滑の作り手・冨本大輔さんも毎回出店しています。一昨日まで開催していた秋の陶器市で、冨本さんのテントを覗いてみたら、素敵な赤絵の…

白と黒と

産休などもあり、取り扱いをお休みしていた川島いずみさんに、久しぶりに飯碗を作ってもらいました。東洋の古陶磁への憧憬が強い作り手で、ここ最近は宋胡録(スンコロク=タイのやきもの)をモチーフにした作品を作っていましたが、川島さんの定番と言えば…

百代の過客

終戦の日と前後するこの時期に考えてしまうのが、「近代とはなんだったのか」ということ。 うちは特に父母が高齢なので、話を聞けるうちに、わが一族にとっての近代についても考えておきたい、と思うようになりました。父の一族は上州出身。国家公務員だった…

呼ばれ方

お客さまとは親しく話をさせていただくけれど、プライベートな部分にはみだりに踏み込まないようにしている僕。ゆえに、数回ご来店いただいているおなじみさんであってもお互いに名前を知らない場合も多いわけ。お付き合いの長いお客さまは僕のことを「ハル…

GREY

フリーアナウンサーの近藤サトさんが白髪染めをやめた話をネット上で見かけ、なるほどねー、と思う。近藤さんは僕より年がひとつ上らしいけれど、この年頃って遅かれ早かれ、見た目の若々しさ(「あら、お若いわね」っていうやつ)を持続するか、それとも加…

ありがたや

うつわブームと言われるようになって久しい昨今、器という工藝の特殊性に重きを置いている『通(ツウ)の方々』は、こういう状況をさぞや苦々しく思っているのではなかろうか、などと勘繰ってしまう僕。 例えば、うちの店もその煽りでメディアに掲載されるこ…

コラム補足

WEBマガジン「チルチンびと広場」に掲載されている僕の連載コラム「コハル・ノート -モノと語る-」が昨日更新されました。小石原焼についてのおはなしの三回目。 福岡県東峰村にある小石原地区は、昨年の九州北部豪雨で大変な被害があった地域。損害を被っ…

足を運ぶ

超インドアな業務ばかりだと思われているであろう「器屋」というお仕事。器を並べ、決まった時間にお店を開け、決まった時間に閉める。そういう毎日のルーティンに関しては確かにインドアで成されているわけです。 特に僕の場合、デザインワークなどを含めた…

漱石山房

漱石の終の棲家の跡地にできた漱石山房記念館(昨年9月に開館)に行ってきました。うちの店から早稲田方向に歩いて15分。 あらら、うちの店って実は、明治の文豪が暮らした場所からこんな近いところにあったのね、とちょっと不思議な心持ち。館内には、漱石…

二回目のコラム

WEBマガジン「チルチンびと広場」で始まったコラム「コハル・ノート -モノと語る-」。その連載二回目が、先日公開されました。モノづくりを通して、各地に息づく文化などを僕の目を通して書き進める月イチ連載のコラムで、だいたい三ヶ月かけて、ひとつの…