コハルアン日乗

コハルアン店主の私的記録|器と工藝のこと|神楽坂のこと

漱石山房

f:id:utsuwa-koharuan:20180621170005j:plain


漱石の終の棲家の跡地にできた漱石山房記念館(昨年9月に開館)に行ってきました。

うちの店から早稲田方向に歩いて15分。
あらら、うちの店って実は、明治の文豪が暮らした場所からこんな近いところにあったのね、とちょっと不思議な心持ち。館内には、漱石が闊歩した牛込界隈(早稲田から神楽坂にかけて)の地図「漱石の散歩道」が掲出されているけれど、うちの店がある場所は、そのど真ん中。にわかに、歴史上の人物の息遣いが身近に感じられてきます。
貴重な直筆原稿等の展示の他、漱石の書斎内部とその外観が再現されていたりして、明治末から大正にかけての時代の空気がやんわり伝わってくる構成。若い頃の僕は全然文学青年じゃなく、日本文学の名作なんて悉く避けてきたけれど(←自慢できん)、ちゃんと漱石作品を読んでみたいという気持ちになりました。今更ながら。


智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。(草枕

近代初期を生きた漱石の言葉は、さすがに正鵠を射ていますね。時代を超えて。
流されないように角を立てながら窮屈な生き方をしている僕の現状と見事にシンクロしているのですから。
よく考えてみれば、いつの世でも、人は同じようなことに思い悩みながら生きるものなのかもしれませんね。漱石が生きた時代と比べれば生活環境は段違いに進歩したけれど、人間の本質なんてそんなに変わるものじゃないのかも。それにしても、文字というツールを通して、100年前に生きた人の考えに共感できるなんて、これは人間という生き物に与えられた恩寵のようなものなのかな、と思えてきます。
漱石関連の資料の多くは神奈川近代文学館に所蔵されているということだけれど、旧居跡にこの記念館を建てるなんて、なかなかの計らいではないでしょうか。いいぞ新宿区。


*追記
漱石山房は死後もそのまま保存されていたそうですが、昭和20年5月の空襲で消失したとのこと。
これだけではなく、あの戦争で、いったいどれだけの人命と貴重な遺産が失われたのだろうと考えると、気が遠くなります。


コハルアン オフィシャルページ https://www.room-j.jp