コハルアン日乗

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言葉の海

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NODA・MAP第22回公演「贋作 桜の森の満開の下」を観てきました。

第18回の「MIWA」、第21回「足跡姫」も観ているので、今回で三回目。
前に見た二回と同じく、今回も脳の奥の方をずこずこ刺激されてきました。

全編を貫く言葉遊びは、日本語の特徴(『母音』もしくは『子音+母音』の五十音で構成される)を最大限に活かしたシンプルなゲームの趣。
ただし、既成の単語や文脈を一度完全に分解して組み立て直すような挑戦的な試みをやってのけるのが、野田さんの流儀なんですね。五十音の掛け合わせのパターンを考えると、観客は膨大な量の情報を脳で処理しなくてはならず、それが演者との間に心地よい緊張感を生むことに繋がります。
この感覚こそライブの醍醐味。演劇ならでは、ですね。スリリング。

「贋作 桜の森の満開の下」は、夢の遊眠社時代から幾度にも渡って再演してきた名作だということなので、今回はその進化の最先端に触れたことになります。また、内容が内容だけに(無味乾燥な言い方をすれば『壬申の乱に勝利して皇位を簒奪した天武天皇による律令国家建設の物語』)、天皇の代替わりにあたるこの時期にちょうどマッチした作品だと言えるかもしれません。
ただ、「日本国誕生万歳!」という単純な内容ではなく、異能の人・美輪明宏さんをモデルにした「MIWA」や江戸の戯作(及び十八世中村勘三郎丈)に対するオマージュである「足跡姫」、それらと同じ「多面体としての世界」を駆け抜ける野田さんの感性の一端に触れることができる作品だったと思います。

NODA・MAPをずっと見続けてきたわけでもなく、ましてや夢の遊眠社のお芝居を見ていたわけでもないので、コアな野田ファンの方々からすれば、「おいおい、知った風なことを言うなよ」と思われちゃうかもしれませんが、深い意味を宿す言葉の海(それも暗い夜の海ね)にぷかりぷかりと浮かぶ快感に浸りつつ、しばし現実逃避をさせてもらいました。
あー、おもしろかった。


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