コハルアン日乗

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オオカミ

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正月三日には、秩父をぐるり。
景勝地として有名な長瀞では、宝登山(ほどさん)という小高い山に鎮座する宝登山神社に立ち寄りました。

ヤマトタケルの地方平定にまつわる説話は各地に伝わっているけれど、この神社のご由緒がまさにそれ。
宝登山上で神を祀ろうとして山火事にあったヤマトタケルを山の神の眷属・オオカミが救い、さらに道案内をして頂に導いたという説話が伝わっています。
そんなことから、山上にある奥宮を護っているのは、獅子を模した狛犬ではなく、阿吽のオオカミ。
今回は行けなかったけれど、同じ秩父三峯神社でもオオカミが祀られているということだし、青梅の御嶽神社も同様。どうやら旧武蔵国の山間部では、オオカミを神の使い(大口真神)として崇める独特な信仰文化があったようです。

これについての一番合理的な説明は、『田畑を荒らす猿・鹿・猪などを襲ってくれるオオカミが神格化された』というものだと思います。
ただ、古い記録では人間がオオカミに襲われた事例も出てくるらしいし、害獣駆除に対する感謝とともに畏れの気持ち(ありがたいけどこわい)もあって、こういう仕儀にいたったのかな、と。

日本の各地にはいろいろな風習があり、秩父信仰文化もまたそのひとつ。
いま我々はニホンオオカミが絶滅した時代に生きているけれど、こういうおぼろげな断片をパッチワークのように集めて縫い合わせてゆくと、失われたかつての日本の景色が見えてくるかもしれません。


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