コハルアン日乗

コハルアン店主の私的記録|器と工藝のこと|神楽坂のこと

妄想の力

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3/13からはじまる企画展示「妄想ANTIQUE」。
タイトルを発表してから、『妄想って……www』みたいな反応も多く、まあ、それはそれで仕方ないわけですが、企画者としてはちょっと言葉足らずだったかな、とも思うので、店主からひとこと。

僕はもともと妄想癖があるほう。特に歴史的な遺物がある土地を旅すると、必ず目をつぶってその場所に埋れた過去のできごとに思いを馳せるんですよ。
旧い礎石が並ぶ福岡の大宰府政庁跡に立てば、左遷された菅公の心の動きを追想してみたくなるし、平城宮の跡地に立てば、『あをによし……』と歌に詠まれた寧楽の都の栄華を追体験したくなる。つまり、目に見える物体から目に見えぬ空気を読み取ろうとしてしまうわけですね。
それは、自分の専門分野である器の世界についても同じこと。たとえば、九州波佐見で登り窯の跡を訪れたら、往時の陶工たちの息遣いに耳をすませ、やきものの黎明期の空気の中に身を置こうとします。

そんなこんなで、『妄想力』というのは、『精神の自由』とか『心の豊かさ』ってやつにつながるものなのでは?……というのが僕の持論。
固定概念にしばられないもの、という認識です。

お客さまに同じことを無理強いするつもりはないけれど、そういった力は、単純に、器を選ぶ時にも必要なのではないか、と思っています。
『この器、欲しい!』と思うときには、『こんな料理を盛りたい、あんな料理も盛ってみたい……』という想像がはたらくわけですが、素敵な使い方をしてくれているお客さまほど独創的。これって、想像力をさらに膨らませた妄想の力がなせる業なのかな?という印象を持ちます。

今回の展示では、昔からある伝統的な手わざを使った作品をご紹介する予定です。
中国の磁州窯や景徳鎮、朝鮮の青磁象嵌、日本の伊万里や漆芸など、アンティークのような風合いを持たせつつ、現代の作り手がいまどきの美意識で組み立て直した器たち。古き良き工人たちの思いに寄り添う『過去への妄想』と、これからの食卓で何に使うかという『日常における妄想』と……。諸々の妄想を喚起する(=心を豊かにしてくれる)手仕事をお楽しみいただきたいと思います。

時節柄、心が萎縮してしまいがちな日々が続きますので、この機会に、ぜひコハルアンでみなさんの妄想のつばさを広げていただければ。
お店としても、営業時間中は折を見て換気をするなど、新感染症に対する方策を講じつつ、みなさまのお越しをお待ちしております。

日々の生活に妄想を!
妄想バンザイ!


コハルアン オフィシャルページ http://www.room-j.jp
妄想ANTIQUE 3/13-4/2 https://www.room-j.jp/gallery/2020/02/313antique-1.php