コハルアン日乗

コハルアン店主の私的記録|器と工藝のこと|神楽坂のこと

答えはいらない

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最近、諸々の媒体で諸々の文章を書いていることもあり、ブログにまで手が回らず……。
ひとつ前の記事を確認してみたら、もう2か月経ってるじゃん!とびっくり。

そんなこんなで、今日はひさびさの更新になるわけですが、器には直接関係のない、雑感的なよもやま話を書いてみたいと思います。
ちょっと面倒な話なので、不快だぜ!と思った方は、即行でブラウザを閉じていただけますと幸いです。


けっこう前の話なのですが……。

いまどきおしゃれ風の20代メガネ男子が一人でご来店。品物一点一点と向き合う……という感じではなく、結構な早足で店内をぐるっと一周。
そして、僕がいるカウンターにつかつかと歩み寄り、「この店のコンセプトって、何すか?」って訊いてきたんですよ。いきなり。

あー、びっくりした。

これまで、置いてある作品に対する質問には星の数ほど答えてきたし、そもそも手仕事にまつわる諸々を伝えることがとても好きだから、この店をやっているのだけれど……。
初対面(それも入店後約2分)での「コンセプト何すか?」って、店の人間をかなりへこませる質問じゃないですか?

たしかにうちの店では、作家もの、窯のもの、民藝的なもの、プロダクト的なもの、などなど……店主が直感的に「よい」と思った手仕事をいろいろ置いているので、訳わからない店だと感じる人もいるのかなあ、とは思います。「作家ものギャラリー」とか「民藝店」とか、わかりやすい一言でくくれないことは否めないし。

うーん、でもねえ。
生意気な言い方かもしれませんが、「コンセプトを知れば、その店のことが一発で理解できる」っていう考えは、すごく乱暴だし、傲慢に感じられるんですよ。
本来、コンセプトなんて知らずとも、その店が自分の波長と合っていればそれでいいわけだし、波長が合わなければ、その店のコンセプトなど知るべくもないのかな、と。もちろん、人によっていろいろな考え方があってよいとは思うけれど……、僕の場合、波長が合う店であれば、何度も足を運んで、その店が重ねる時間や醸す空気を直感的に味わってゆきたい、と思ったりするわけです。
どちらにしても、コンセプトなんて、初見で知るべきものでもないし、ましてや初見で問い質すような類のものには思えません。


そう、何故こんな前の出来事を思い出したかというと、先日読み終えたばかりの武田砂鉄さんの著書「わかりやすさの罪」に出てきた劇作家・鴻上尚史さんの話がちょっと似ていたから。

端折ると真意が伝わらなくなると思うので、以下、砂鉄さんの著書よりそのまま引用。

(映画監督・森達也氏のエピソードとして)
「少し前に会った鴻上尚史が、『最近の演劇の観客は昔とはずいぶん変わってきた』と言っていたことを思いだした。
『どう変わったのか』と訊ねれば、『芝居が終わってから、結局は誰が悪者なのですか、って真顔で訊くんだよ』と鴻上は困ったようにつぶやいた」

もちろん、鴻上さんのような演劇界の大ベテランと、うちのようなしがない食器屋といっしょくたにするのは気が引けるけれど、「コンセプト何すか?」も「結局は誰が悪者なのですか」も、なんだか根っこは同じところにあるような気がするんですよね。
きっと、質問をする側としては、「『わからない』という白黒つかない状態(余白)には耐えがたい」し、「無駄な思考には時間をかけずに結論を急ぎたい」という思いがあるのでしょう。それは現代人の思考回路に巣食う病理であるようにも思われます。

いわゆる文化に属するアレコレって、余白とか無駄によって成り立っているものですからね。それを「時間がないので、今すぐに白黒はっきりさせてくれ」ということになると、こちらはもうなすすべなし。
「コンセプト何すか?」なんて質問、ちょっとした凶器のようなものだと思いますよ。もし、そんな不躾な質問を繊細な作り手にぶつけたら、その人を支える矜持のようなものがポキっと折れてしまうんじゃないでしょうか。図太い僕でさえ、不意を突かれて面食らってしまったんですから。


自分の店のコンセプトを説明するのなんて、人前でパンツを脱ぐのと同じくらい恥ずかしいことなので、今は、ふたたび「コンセプトは?」という質問がこないことを願いつつ……。
もちろん、上でお話しした通り、手仕事の魅力や背景についてお伝えするのはとても好きなので、お品物についての質問はいくらでもお受けしたいと思っております。むしろ、商品質問c'mon!という感じ。お客さまが「もういいよー、やめてけれー」と思うまで、しつこく説明させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


追記(10/18)
コンセプトを知ることが悪いと言っているのではなく、要は、物のひとつひとつを眺めて手に取っているうちに、その店のコンセプトなんて、自然に伝わってくるものであろうに……ということ。もっと直感的に生きようぜ!というお話なのでした。
野暮な追記ですが、誤解なきよう、一応、念のため。



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